7.2つの住宅譲渡損失の繰越控除の特例(売却)

5年を超えて保有する居住用財産を売却して売却損が出た場合、この売却損をその年の他の所得と損益通算でき、損益通算しても赤字となった金額については翌年以降3年間繰り越して所得から控除できる制度です。

【1】マイホームを買いかえたとき

売却したマイホームに赤字が認められた場合、その条件は次のようになっています。

■売却するマイホームの条件

  • 所有期間が売却する年の1月1日現在で5年を超えていること。
  • 売却したマイホームに譲渡損失が生じ、その年の他の所得と損益通算しても、なお赤字が生じること。
  • 500m²以上の敷地を売却した場合は、500m²までの損失しか対象とならない。

■買いかえるマイホームの条件

  • 前のマイホームを売却して、翌年の12月31日までに新しいマイホームを住宅ローンで購入すること。また、マイホームを先行取得する場合には、翌年の12月31日までに前のマイホームを売却すること。
  • 購入するマイホームは50m²以上の床面積を居住用にすること。
  • 購入後のマイホームの住宅ローンは、融資期間が10年以上で、特例を受ける各年の年末に残債があること。

■所得制限など

  • 特例を受ける各年(3年間)の所得が3,000万円を超える年については、特例を適用できない。
  • 住宅ローン減税制度」と併用することができる。

■繰越控除の計算例<ケーススタディ>

  • 2011年5月に7,000万円で購入したマンションを、2019年4月に4,000万円で売却し、5,000万円の住まいを購入。
  • 購入後の住宅ローン残高は2,000万円。
  • 2019〜2023年の各年の所得800万円、所得控除190万円、所得税は79万2,500円とする。

【住宅譲渡損失の計算】
4,000万円(売却代金)-( 7,000万円(取得費)-529.2万円(※建物償却費) )-( 132.3万円(手数料)+2万円(その他) )
=△2,605.1万円(住宅譲渡損失)

※建物償却費  7,000万円×70%×0.9(定額法)×0.015×8(所有年数)=529.2万円

【2019年度分の所得税】
800万円(所得)-2,605.1万円(住宅譲渡損失)=△1,805.1万円(繰越譲渡損失)

損益通算により△1,805.1万円の譲渡損失が残ったので翌年に繰越が認められる。 所得税は全額79万2,500円が還付

【2020年度分の所得税】
800万円-1,805.1万円=△1,005.1万円(翌年へ繰越)
所得税は全額79万2,500円が還付

【2021年度分の所得税】
800万円-1,005.1万円=△205.1万円(翌年へ繰越)
所得税は全額79万2,500円が還付

【2022年度分の所得税】
800万円-205.1万円-190万円=404.9万円
所得税は41.02万円が還付

【2】マイホームを譲渡したとき

2019年12月31日までのマイホームの譲渡に適用され条件は次のようになっています。

■適用の条件

  • 所有期間が売却する年の1月1日現在で5年を超えていること。
    A.譲渡損失が発生していること。
    B.売買契約を締結した日の前日に住宅ローンが残っていて、この金額が売却金額を超えていること。

■所得制限など

  • 特例を受ける各年(3年間)の所得が3,000万円を超える年については、特例を適用できない。
  • 以上のケースでA(譲渡損失)かB(売却代金-住宅ローンの残債)のいずれか損失の少ない方の金額が損益通算および繰越控除の対象となります。

■繰越控除の計算例

  • 2011年5月に7,000万円で購入したマンションを、2019年4月に4,000万円で売却し、住宅ローン残高が売買契約の締結日の前日で5,000万円あるケース。
  • 2019、2020年の各年の所得800万円、所得控除190万円、所得税は79万2,500円とする。

【適用対象譲渡損失の計算】
(A)4,000万円(売却代金)-( 7,000万円(取得費)-529.2万円(※建物償却費) )-(132.3万円(手数料)+2万円(その他) )
  =△2,605.1万円(住宅譲渡損失)
(B)4,000万円(売却代金)-5,000万円(住宅ローン残高)=△1,000万円損失の少ない方の金額△1,000万円
  損失の少ない方の金額△1,000万円

【2019年度分の所得税】
800万円-1,000万円=△200万円
損益通算により△200万円の譲渡損失が残ったので翌年に繰越が認められる。
所得税は全額79万2,500円が還付。

【2020年度分の所得税】
800万円-200万円-190万円=410万円
所得税は40万円が還付。

※繰越控除の計算例について、2019、2020、2021年の住民税は均等割のみの額です。また、2022年は大幅に下がります。